希土色の刻

KidocolorOhmichi's Reminiscences

ビートたけしは「俳優いかりや長介」の夢を見るか?

natalie.mu

少し前のものだが、このインタビューの雰囲気がいい。

内容というより、二人の距離とその間を漂う空気感が。

西島さんは別な場で「私はたけしさんの弟子です」とも語っているが、実際『弟子』と名乗るにふさわしい方だと思う。

『弟子』とは師に学び、その『学び』を自らの『個』へ採り入れ、換骨奪胎した上で自分のものとし『実力』で結果を出した者だけに名乗る権利がある(守・破・離とも云う)

結局、多彩な活躍を見せたビートたけしの正統な「弟子」とは、このように(いわゆる)軍団以外から登場するものなのかもしれない。

傍に長くいれば痲痺し狎れてしまい、学んだものを活かそうとも思わなくなる。

 

本題だが、ここで殿は「役者としての俺は下手だよって普段から言っているんだよ。ひどいときには「俺はカンペがなきゃやんないよ」とか言っているし(笑)」

と語っている。

自分は過日のデビッド・ボウイ死去の報に際し自然、出演作である『戦場のメリークリスマス』を想起し、共演者であった「役者ビートたけし」にも連想は及んだが、そこで昔の出来事を不意に思い出した。

ーー確かあれは1987年頃だったと思う。

高視聴率を誇った人気番組『8時だョ!全員集合』が16年の歴史に幕を下ろし、それに伴い、ザ・ドリフターズとしての活動は休止し、リーダーであったいかりや長介さんは俳優活動に身を投じた。

そしてNHK大河ドラマ独眼竜政宗』では一定の評価を得るに至った。

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そんな頃、どこか局の楽屋だったと思うが、たけし軍団を前に、リラックスした場で殿が不意が言った。

「いかりやさんは役者やってもやっぱ“ドリフターズいかりや長介”だよな。どうみたってよ」と笑っていた。

自分なりに『独眼竜政宗』あたりを観た感想なのだろう。

ただし、こんな時、眼前の我々は実にリアクションが難しい。

ーー誤解しないで欲しい。

ビートたけしが先輩であるいかりや長介を批判した」などと云う単純で薄っぺらな捉え方はやめて欲しい。

これは、今では少なくなった「生粋の江戸っ子」固有の特徴でもある。

普段から裏表がない代わりに「そんな事言っていいのかよ」と周囲がギョッとするような本音を時折ペロッと口にする。

本音には違いないが「悪口」とも違う。

それも「悪意」だとか感情にまみれた陰湿さを一切孕むものではなく、カラッとした調子で言ってのけるのだ。

 

ーーやはりキャリアの殆どが最前線のバラエティであったタレントに、その先入観を抜いて、劇中の役柄を純粋に観ることは難しい。

それは自分も言われてみれば以前から感じていた事でもあった。

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その後、火曜サスペンス劇場の『取調室』シリーズで水木正一郎警部補役からはじまり、他の作品でも次第に刑事が「はまり役」となっていったように思う。

今思えば亡くなるまでの20年近くを俳優として活躍したのだ。

ーーしかし、前述の言葉を受けて考えるに、殿自身はどうなのだろう。

自分も、どのTVドラマや映画の出演作品を観たとしても客観的に「配役」として捉える事が難しい。というか正直言って全く出来ない。

どうみても「バラエティのビートたけしが映画に出ている」としか思えないのだ。

ただし自らの監督作品では「本当は出たくないけど興行収入を考えるとプロデューサーから“出て欲しい”と言われる」と嘆きつつ、不本意ながらも出演する理由も語っている。

特に主演になると「ビートたけしのプロモーション」としか思えない結論がある。

観ている自分は、やはりストーリーそのものに没頭しているとは云いがたい。

「ある時代にどこかの場所でこんなストーリーがあったのだ」という「リアリティ」がほとんど感じられない。

皆はどうなのだろうか。

どうもこれは「演技力」の次元ではなく「過剰な存在感」の仕業なのかもしれない。

例えば自分が殿の監督・出演作品で好みのものを挙げるなら、自身の人生を大団円式に振り返る『キッズリターン』(これは殿のメンタルから掘り下げ、別の機会に分析したい)


キッズ・リターン - 劇場予告編 (Takeshi Kitano)

 なぜか唐突で変則的なタイミングに制作された、冷静に考えるなら背景と動機に『謎』多き『菊次郎の夏』(これも一度、考察を踏まえて別の機会に掘り下げたい)


映画「菊次郎の夏」劇場予告

ーーこのあたりだろうか。

冒頭の西島秀俊さんが主演された『Dolls』(これは殿の極めて内省的な部分が投影された作品であるが、諸般の事情から今は評価を控える)も大変気になる作品だが、最後までしっかりバランスさせる事が出来なかったと思う。


『Dolls』予告編 北野武  トレーラー Trailer trailer

やはりこの3作中2作は『役者ビートたけし』が存在しない。残りの1作も実は奇妙な立ち位置で出演している特殊な作品だ。

そもそも論として、北野作品はいずれも動機に必ずその時々の内省性が加味される「手強い作品」と思う。自分もここでは「好き、嫌い」形式の単純な評価を下す気はない。

ーー別の場で殿が語っているが「映画を撮るようになって監督の気持ちがわかるようになった。だから他の監督作品では言われたとおりにやって余計な事をやらない」との事だから、他の監督での出演作品は、本人には与り知らぬ部分でもある。

ーー結局自分は、あの当時殿は「俳優いかりや長介」をああ評したものの、結局今度は「俳優ビートたけし」が同じ立場になったのではと感じた。

あの時の言葉を殿は果たして覚えているのであろうか。

そして「今ならどう思いますか?」と是非問うてみたい。きっと答えは当時と違っているはずだ。

 

いかりや長介という生き方 (幻冬舎文庫)

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